伴子さんあとね、印象的だったことがあって……。風の森さんに頼むことが決まって、基礎の造成のときなんですけど、土谷さんが、基礎のところに生えていた木を何本か、別の場所に移しておいてくれたんです。「このウリハダカエデは紅葉が綺麗だから、こっちに移しておきました」って。入り口にあるコナシっていう白い花が咲くズミの大きい木も、サクラも、みんなそうやって残してくれていて……。それを知って、「風の森さんで本当によかったなあ」と思って。違う工務店さんだったら、作業が下請けの下請けとかになって、事務的に言われた通りのことしかしてくれないんじゃないかなって思うんです。いらない木は全部切って、言われた通りの家を言われた通りに建てておしまい、みたいな。土谷さんは、本当にこの土地に愛着を持ってくれていて……。それが本当に嬉しかったです。
「やっぱり素材がいい!」その土地に馴染むことの大切さ
セルフビルドをしてみて感じた”風の森の魅力”って、他にもありましたか?
伴子さん素材が、やっぱりすごくいいですよね。風の森さんにお願いした理由でもありますけど、国産の無垢材にこだわりを持ってやってらっしゃるんだなっていうのがわかります。うちも、壁の中の間柱まで全部無垢材で、集成材とかは使われていません。
崇行さん大学時代に彫金で伝統工芸みたいなことをしていたので、伝統的な材料の味感とか、素材のよさとかが見えちゃうところがあるんです。壁紙とかサイディングの家だと、どうしても作り物っぽくなりますよね。そういう素材に比べると、風の森さんで提供してくれる材料って、やっぱりすごくよくて。
伴子さん素材がいいと飽きないし、その後の自由度が高いんです。
崇行さん柱もすごくよい木を提供してくれたみたいで、土谷さんが「これはいい木なんです!」って(笑)。外壁も”ウッドロングエコ ”っていう天然由来の保護塗料で塗ってあるんです。普通、外壁ってキシラデコールとかですよね。でもそれだと「塗ったな」みたいな人工感がある。ウッドロングエコ はすごく自然な感じで、人工感がない気がします。
伴子さんこの景色や木が好きで引っ越してきてるから、自分としてもこの土地の景色や在来種を大事にしたいんです。だから家の材料も、”環境との馴染み”っていうのがすごく大切だなと思って。家って、その地域にひとつ建つだけで景色が変わるじゃないですか。だから”その土地に馴染む家”というのを、ちゃんと考えて建てるというのは、すごく大事なことですよね。”自分の家”だけれど、その家が”社会とのつながり”の部分でもあるから。風の森さんのおすすめの素材というのはその土地に合ったものだから、すごくよかったなあと思ってるんです。
家づくりの制限時間、1年間!
伴子さんそれで、土地も決まって、住宅ローンを申請して建て始めたのですが、契約の関係上、ローン開始から1年で家屋調査をしなくちゃいけなくて……。建てた家が担保になるので、「ちゃんとした家です」って資産としての評価ができないといけないんです。
でも8月末に住宅ローンの契約をして、そこから家の設計が始まって、12月に基礎ができて建て方をやって、なんてしているうちに5か月くらいはあっという間に過ぎちゃって。12月末か1月ごろにやっとセルフビルドが始まったときには、もう残り半年。自分たちのつくり始めがいつだったとしても、期限が決まっているので、最後は時間との闘いでした。
崇行さん家屋調査は、担当者によって多少の違いはあるみたいですけど、うちの場合は「石膏ボードは張り終えていないとダメ」って言われて。期日に合わせて徹夜して、石膏ボードをむちゃむちゃ急いで張って。やっと「終わりました!」って電話して、家屋調査にきてもらいました(笑)
伴子さんキッチンも固定してなくて「床に置けばいいよ!」って。なんでも並べるだけ並べて(笑)
崇行さんそんな時間制限もあったし、やっぱり早く引っ越したかったので、本当に全力尽くして頑張って、壁に漆喰を塗って、最後は床に亜麻仁油を塗った後、2日目くらいで引っ越してきました。本当はひと月くらいは乾かした方がいいんですけど、そんなことは言ってられなくて(笑)。引っ越したときは水まわりはできていて、床板も張り終えていたんですが、内装の細かいところはまだでしたね。最後はもう切羽詰まって徹夜したりして、とにかく時間に追われるのが大変でした。住宅ローンがなければ、違ったと思うんですけど。
本当に大変だったんですね。そんなに頑張ったセルフビルド。家をつくるときに何かこだわりとかはあったんですか?
崇行さんうーん。ないですかねー(笑)。強いて言えば、妻のやった洗面所のタイルとか?あとはキッチンをステンレス製にしたくらいかな。僕はそもそもあまりこだわりというか、興味がないので(笑)、割と「何でもいい」って思っちゃう。どういう家にするかを考えるのは妻で、実践するのは自分だったりするんですが、こだわりのある方の思いを尊重したいっていう気持ちがあります。
おおー
おおー! 奥さまのこだわりのためにそんなに頑張れるのが素晴らしいです。
崇行さん自分も妻も仕事がものづくりだから、「いまここをやっとかないと、後で大変になる」っていうのがだいたいわかるんです。「後回しにすると、歪んじゃったり汚れちゃったりで、住み始めてからがかえって大変」ってわかるから、「ここだけはやっとこう」というのがあって。そこにはもう、全力を尽くしましたけど、でも、こだわりって言われると、ないかなー。「とにかくやんなきゃ」みたいな気持ちしかなくて、こだわり、なんて言ってられなくて……。難しい箇所は風の森さんにやってもらえたから技術的には大丈夫だったんですが、時間的にはきつかったです……。もちろんセルフビルドは楽しかったですけど、途中から”卒業制作”みたいでしたもん(笑)
欠かせなかった協力プレー
しかも小さいお子さんがいてのセルフビルドだったんですよね。
崇行さんそもそも、この子の子育てのための引っ越しだったから(笑)
伴子さん娘が生後3ヶ月の頃にちょうど建て方があって、その後1月の寒い時期からセルフビルドが始まったんです。最初は私も一緒にやっていて、断熱材を入れてる頃はまだよかったんですけど。娘もねんねでそんなに動かないから(笑)。でもハイハイから立ち上がるようになると、もう目が離せなくて、途中からはほぼ夫ひとりでやることになっちゃいました。
セルフビルド中は崇行さんのご実家から通われていたんですか?
伴子さんそうです。あと、土谷さんから3坪の小屋をお借りしました。最初は、朝お弁当をつくってみんなでここにきて、娘が小屋で寝てる間に家づくりをして、終わったら帰って、とかしてたんですが、切羽詰まってきてからは夫がひとりで小屋に寝泊まりしてやってましたね。
崇行さん寝泊まりといってもほぼ寝てない。仮眠ですねー。仮眠小屋(笑)。でもあの頃は本当に協力プレーでしたね。
協力プレーといえば、タイルの洗面台とか、室内の家具は伴子さんがつくったものが多いですね。
伴子さんそうですね。内装関係の細かいところは、ほぼ私がやりました。洗面所のタイル貼りも、娘が寝てから真夜中に車でこっちにきて、暗ーい中で貼ったりして(笑)。タイルシートの色の組み合わせがいまいちで、タイルを一度全部バラバラにして貼ったりもしました。そこにある子ども用の机や小さい椅子、棚なんかもつくったんですよ。
すごいです! おふたりは、もともと手を使うお仕事をしていらっしゃいますが、セルフビルドの経験で何か変化はありましたか。
伴子さん能力値は上がった気がします。自信もつきました。
崇行さん何かないものがあったときに、すぐに「つくろう」という気持ちになるし、大工仕事のレベルは上がったかな。家づくりは初めてだったけど、ものづくりっていうのは基本同じなので、大工仕事も教えてもらえればできたし……。まあ、あまりレクチャーらしいレクチャーっていうのはなかったけど(笑)、わからないところはインターネットで動画を見て調べたり。そうやっていろいろと知識を総合して「きっとこうに違いない!」って。でも、人によってやり方が違うみたいで(笑)。実験して、やってみて、ですね。
伴子さんようやくこの家ができて、しばらくはのんびりするんだろうなーと思っていたんです。そうしたら友人から保育園開設の話があって……。実は私は以前、東京でモンテッソーリ教育っていう教育法の勉強をしていたんです。それで「いつか、本格的にモンテッソーリの教材とか家具をつくったり、病気の子どものための仕事なんかもしてみたい」と思っていたんですよね。
最初は友人から「0歳用から6歳用までつくってほしい」と言われたんですけど、全部私の手づくりだし、そのときもう開園まで3ヶ月しかなかったからとても無理で(笑)。それで、まずは0歳用から3歳用までをつくることになりました。2月の寒い時期に、庭の作業台で外作業ですよ。でも、やりたかったことだから、ちょっと頑張ろうかなって。本当はのんびりするつもりだったけど、「Miki Craft」を設立しました。
早いですよね、何でも。決めるのも実行も、本当に早い!
伴子さん土地との出合いも仕事との出合いも、波がきたら乗るしかない! ですよね(笑)。実は、ゆくゆくは機械も入れて木工の量産ができるように、工場用の土地も探しているんです。
セルフビルドの家づくりで、伴子さんの夢や人生が加速したんですね。
伴子さんはい。セルフビルドしたら、夢がちょっと前倒しになりました(笑)。でも「欲張らないで、できることをひとつずつ」って、最近は毎日自分に言い聞かせてます。あれもこれもになると、家づくりもそうだけど、女の人ってどうしても思い入れがありますから。夢はあるけど、それをいっぺんに欲張ろうとしても絶対に無理だし、体はひとつだし、時間もないし、ストレスもたまる。やらなくちゃいけないことは山ほどあるけど、本当は娘との時間が最優先で「土日は娘のための時間」って決めていて。土日はなるべく仕事をしないようにしているんです。どうしてものときは、夫が子育てを頑張ってくれてます! 料理が得意で、ご飯とかもつくってくれて。
崇行さん最近は「土日よろしく!」って言われてます(笑)
アトリエができれば、スピーカー制作がご趣味で金工、木工に留まらない作品作りをされている崇行さんも集中できるし作業がしやすくなりますね。
崇行さんアトリエの方は、僕も建て方から一緒にやっています。昨日で建て方はほぼ終わったので、ここから後はまたセルフビルドになります。アトリエにはウッドデッキもつくって、木工作業を外でできるようにしたいですね。その次は庭のウッドデッキと屋根つきのサンルームですね。景色が見えるように窓もつけて。でもそれは来年かなー(笑)
使える場所がますます広くなりますね。このお庭は日当たりが最高ですし! そういえば窓辺に小さな植物のポットがたくさんありますね。
美味しいガーデン
伴子さん植物を育てるのは私の趣味で(笑)。庭づくりはひとりでやってますね。庭にあるハーブ畑は、娘が植えたり摘んだりして楽しめるように外壁材の残りで手づくりしました。ここに並んでいる小さいポットは、種から育てている八ヶ岳の植物です。環境に合った植物だから、育つのに手間がかからないんですよ。そんな無理のない庭づくりがしたいなと思ってます。私は出身が鎌倉で、谷戸っていう小さな谷間や川の土手とか、自然の中で遊んで育ちました。ここも子育てには最高です。娘もよく花を摘んできて「見てー」って(笑)
伴子さんアトリエの基礎をやるときに、どうしてもそこにあったクヌギを切らなくちゃいけなくて。土谷さんに「シイタケできますか?」って聞いたら「できるよ」って。なのでクヌギにシイタケ菌もつけました(笑)。あと、そのうち庭でミツバチも飼おうって。
やることがいっぱいだ。シイタケが採れて、ハーブも採れて、ハチミツも採れて、いい庭になりますねー。1年後、2年後が楽しみです!
「小さく建てて、大きく育てましょう」
最後に、これからセルフビルドに挑戦したい人や迷っている人にアドバイスがあれば、教えてください。
崇行さんやめたほうがいいよって(笑)。だって大変だもん。
崇行さんセルフビルドする人は相当、もの好きですよー(笑)。時間制限がなければいいと思うんですけどね。のんびり10年くらいコツコツとなら。
でも、それもなんなのでもうちょっと希望のある話もすると、最初は大工仕事に慣れなくても、やってるうちに慣れて、最後には絶対にできるようになります。もしできなくても、風の森の職人さんがフォローしてくれるし。体力と、あと時間と資金の余裕は、あればあった方がいいですけどね。初めてだから、どうしても予想しているよりは、かかるので。
伴子さん欲張らないことですかね。お家って、どうしても欲張っちゃいますから。一世一代の買い物だから……。でもセルフビルドは、最初は欲張らずにつくったほうがいいのかなーって。最初から大きくつくると、予算的にも厳しいし。それで、欲張らないでまずは一回小さくつくって住んでしまえば、その後は欲張れちゃう。土谷さんが、「小さく建てて、大きく育てましょうねー」っておっしゃってて。なるほどなーって思いました。「家は、住みながら育てていけるから。そういう家にしましょうねー」って。
崇行さんだから、最初はシンプルにつくった方がいいんですよね。その方が後でいじりやすい。壁も白くしとけば、カーテンとかで色をつけても、どんな色でも合いますからね。そんなふうに、住みながら使いやすいように改造できるのが楽しいし、それがもう、自分たちでできる。「ほしいな」というときに、頼まなくていい。
伴子さんいい材料がほしければ風の森さんに頼めるし!
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