セルフビルドは学びの宝庫!

INTERVIEW04
セルフビルド体験談

セルフビルド住宅情報

移住 東京都から長野県茅野市へ移住
施工地域 長野県茅野市 標高900m 寒冷地
床面積 1階52㎡(15坪)+ロフト
竣工後の増築 ロフト23.14㎡(7坪)
施工当時の家族構成 ご夫婦(40代)
セルフビルド工事内容 外壁張り、床張り、壁断熱、壁ボード張り、天井張り、漆喰左官工事、洗面台や台所の設置、ロフトなど
施工頻度 7日/週
施工開始から入居までの期間 6ヶ月
入居時の状況 ほぼ完成の状態
東京都内に住むサラリーマンだったIさんご夫妻は、茅野市の市民農園で始めた野菜づくりをきっかけに移住を考えるようになりました。自宅をセルフビルドするために会社を辞め、賃貸アパートから毎日現場に通い、家づくりに集中すること6ヶ月。間仕切りなしのシンプルな家が完成しました。
引っ越して半年。今では市民農園のほか、家の周りの小さい露地をフル活用して日々食べる野菜を育て、日当たりの良いデッキでは太陽光でお湯も沸かすし料理も作るーー。土と光の恵みを満喫するIさんご夫妻に、この暮らしに至るまでのお話を伺いました。

今回はお引っ越し前の夏とその後落ち着かれてからの冬の2回尋ねてみました。
きっかけは「畑」づくり
こんにちは。明るくて気持ちのいいお家ですね。今は12月ですけれど、中は暖房なしで暖かいです。 
風の森 今回のIさんご夫妻のセルフビルドは、これまでに支援してきたセルフビルドのパターンと、とても違うところがありまして。それは、Iさんご夫妻のお仕事が自営業ではなかったことです。自営業であれば、セルフビルド中でもお仕事の都合を比較的つけやすいと思うのですが、会社に勤めていた方がセルフビルドのために退職して、転職期間中に家を建てたというのが風の森の中では前代未聞で。すごく興味があります。
こちらに移住する前はどちらにお住まいだったのですか?
Aさん(妻)私はインドネシアで生まれて名古屋で育ち、それからはずっと東京です。親は今も東京に住んでいます。
Rさん(夫)私は東京生まれで、やはりずっと東京です。
Aさん東京にいた時も名古屋にいた時も、ずっとマンション生活でしたので、ふたりとも戸建てに住むのはこの家が初めてです。
おふたりとも生粋の都会育ちですね!都内から出て移住しようと思ったのはどうしてですか?
Aさんきっかけは、「畑」ですね(笑)
Rさん5年くらい前になりますが、「2拠点での暮らしをしてみたい」と山や海の方をいろいろ見て歩いて、「山がいいな」と。それで最初、茅野市の移住体験住宅を借りました。賃料は光熱費込みでひと月4万円だったかな。
仕事があるので平日は東京にいて、土日になるとこちらに通っていました。その後、ちょうど年末年始で長く滞在した時にきちんと住める賃貸物件を探して、賃貸アパートを借りて週末に東京と行き来する2拠点生活を始めました。
Aさん最初は車のない生活だったし、私は免許はあっても運転ができないので、茅野駅の近くとかバス停から歩いて15分くらいのところで、と賃貸物件を探しました。
Rさん1年目は車がないのでバスでいろいろなところに遊びに行っていましたね。それで、2年目に初めて茅野市の市民農園の畑を借りて、野菜づくりを始めました。
Aさん私が「固定種」の種からつくる野菜づくりに興味があって。地元固有の野菜のことなのですが、「固定種は美味しい」ってみなさんが言うから、「そんなに美味しいなら食べてみたい!」と。それで「やってみるか!」って(笑)。畑は好きでしたけれど、東京にいた時はプランターでちょっとつくるくらいで。でもうまく育たないんですよ。才能がないんです。でも私は食べ物が好きで(笑)
Rさんそうやって3〜4年間、市民農園で野菜づくりをしながら東京との2拠点生活をしていたのですが、コロナが始まってしまって……。コロナで県をまたいでの移動が制限されて、行ったり来たりがしにくくなって。その時、「これで畑ができなくなっちゃうのなら、こっちに来た方がいいな」って。その頃、仕事が忙しかったということもあるし、在宅でリモートで仕事をしていたこともあって、「東京にいる必要もないか」って。
「家づくりは勉強の宝庫なんだ!」
そうやって移住を考えた時に、「セルフビルドで自宅を建てる」と決めた理由はなんですか?
Aさんコロナの時に家でYouTubeを見ていたら、いっぱいいるんですよね。若い男の子で山に入って小屋をつくる人とかが。その人たちのYouTubeを見ていて、「家づくりって、勉強の宝庫なんだなー」って思って、Rさんに「やりたい」って言いました。
「セルフビルドがしたい」って言い出されたのは奥様からなのですね。Rさんの方は、もともと「セルフビルドをしたい」というのはなかったのですか?
Rさんまったくなかったです。日曜大工もしたことはなかったですし、丸ノコとか、大工道具を触ったことさえなかったので、そこから勉強しました。本や動画を見たり、DIYの教室や小屋づくりのワークショップに行ったり。
Aさんでも、実は私たち、家についてこだわったことって人生で一度もないんです。ずっとマンションに住んでいて「マンション、最高!」くらいに思っていたので。東京の親もそうですよ。管理もいらないし、もうそれこそ「一生マンションで生きていく」って思っていました。本当に家にこだわりはなくって、「住めればなんでもいい」って、今でもそう思っています。
でも、「家をつくるなら自分たちでセルフビルド」と思ったのですね。
Aさんそうです。「セルフビルド」が前提でした。だから「家が欲しい」というよりは、「セルフビルドがやりたい」と。そういう気持ちでした。
セルフビルドのために退職を決意
セルフビルドをするために会社を退職をされたとお聞きしました。よく決断されましたね。リモートで続けるという選択肢もあったかと思うのですが。
Rさん不安はそんなになかったですね。確かに「東京で勤めている時と同じ収入を維持しよう」と思えば、なかなか踏ん切りがつかないと思いますが……。でも、生活スタイルを変えることで「そんなに収入はなくていい」と思うことができれば、割と自由にできるというか。私は前職にこだわらないで「新しい仕事でいい」と思っていました。失業中に面接を受けたのですが、面接では「会社を辞めてセルフビルドをしています」と伝えました。その会社に「履歴書を送って」と言われたので送っておいて、家ができてから「家づくりが終わりました」って連絡して。そうしたら採用されました。前職と同じSEで、会社もすぐ近くです。出勤がなくてリモートなので、今はほとんど在宅で仕事をしています。
Aさん合う会社があって良かったです。それにリモートでこれだけ長く家にいるから、「家を建てて良かったな」って思いますね。
すごいお話ですね! 前もって次の就職先を確保してから辞めたわけではないところがすごいですし、勇気があります……。それはやはりご夫妻の間に、「何とかなる」という基本的な信頼関係があったのでしょうか。
Aさんそうですねー(笑)。ずっと2拠点で行ったり来たりしていましたし、私たちが使わない時に東京の親もこちらの賃貸アパートを使っていたので、「会社を辞めて移住する」と言った時に親の理解もある程度はありました。それでもまあ、さみしがりましたけど……。最終的には「いい土地があれば」って。「いい土地が見つかったら辞めよう」ということになりました。
Rさんこの土地が見つかったのが大きかったね。
セルフビルドで建てた家
セルフビルドで建てた家
土地との出会いは「たまたま」
風の森さんとの出会いはいつ頃、どんなきっかけでご縁ができたのですか?
Aさんそれこそ「セルフビルド」ですよ。ネットで「セルフビルド」で調べました。土地が決まる前です。風の森さんとの出会いが先で、土地を決める時から土谷さんに相談に乗っていただいてました。
Rさん2拠点の時にはもうネットで調べていて、いざ「セルフビルドで家をつくる」と決めた時に、風の森さんが茅野市の近く(原村)にあったっていうのが、本当にラッキーでした。
Aさんそうですよ。だって、セルフビルド支援をしてくれる会社は全国で6軒くらいしかないんですよ! それがこんなに近くに。
風の森本当にそうですね。実際、風の森がここにあるから、この辺りで土地を探す、というお客さまがいらっしゃいます。「近くでないとセルフビルドができないから」と移住先をここに決めるという。それが、Iさんご夫妻の場合はたまたま偶然でこんなに近くて、すごいご縁ですよね。
そこでいよいよ土地探しが始まったのですね。ここは窓からの見晴らしが最高ですし、南向きで日当たりもいいし。どうやってこんな素敵な土地を見つけたのですか?
Rさん土地の見つけ方は一人一人違うと思うのですが、私は不動産屋さんの情報を見たり、実際に足を運んだりして探しました。この土地は、ネットには載っていなかったです。扱っていたのは下諏訪の不動産屋さんですが、ちょうどゴールデンウィークで、たまたまその不動産屋さんしか営業していなくて。連絡したら会ってくださって、いろいろな土地の情報を取り寄せてくれて、その中にこの土地がありました。しかも、たまたま予算内の金額に価格変更されたタイミングで。
何だか「たまたま」が続きますね(笑)。それですぐにこの土地に決まったのですか?
Rさんいやー。ほかの土地もいろいろ見て、比べました。
Aさん17〜18件くらいは見たよね?もっと標高の高い方も見にいきました。山の中に土地があって、「ここでいいよね」って言っていたんです。そうしたら土谷さんが、その土地を見る前からもう「ここはダメです」っておっしゃって。理由は「車が入れないから」って。あと「雪が降ったら出てこられない」って。それではっと目が覚めて、「身の丈にあった土地にしよう!」と(笑)。自分たちにはサバイバル能力がないし、こういう土地だと井戸だし、下水もないし、引き込みにお金がかかるし。そこでだいぶ気持ちをチェンジして、「現実を見よう」と。それに、セルフビルドをやるには、地面が凍る前の11月中に基礎工事をやらないといけなくて、逆算すると「ここで井戸とか掘っている時間はない!」って気づいて。
風の森それって正解なんですよね。うちのお客さまでも、土地を買ってからご相談に来られる方が多くて……。土谷が「お願いだから、まだ迷っている時、買う前にご相談ください」って言うんです。買ってからだと遅いので。家づくりって、土地選びからなんですよね。土谷は土地の向きもみるし、住み始めてからの生活環境も考えます。慣れていてベテランだから、土地を見るだけでその土地の暮らしやすさがわかるので、土地選びからご相談いただけるといいですね。
最終的にこの土地を選んだ決め手はなんでしたか。
Aさん私が運転ができないので、交通の便というか「暮らしやすさ」ですね。ここからだと、電動自転車でどこにでも全部行けますよ。スーパーマーケットも10分くらい。仕事も自転車で行けます。冬は乗れないかもしれないので、「のらざあ」です(笑)。アプリで予約する市内循環の乗合バスみたいなもので、「乗る」と「降りる」で場所を予約して使います。300円くらいだったかな。タクシーよりだいぶ安いですよね。ここは便利だけど市街地ではないし、暮らすのにちょうどいいです。
Rさん本当に自転車でどこでもいろいろなところに行っていますよ(笑)。土地を選ぶ時、もともと賃貸アパートで2拠点生活をしていたから、土地勘があったのが良かったです。すぐそこに大学があるのですが、「ここは大学があるから、バスが多いだろうな」とかがわかるので。土谷さんにもこの土地を見ていただいたのですが、「土を盛っているので、地盤が弱いかもしれない」って。それで構造計算の専門家に見てもらえたのがすごく良かったです。地盤改良もして、斜面で川のある南側には崩れないようにしてもらいました。
「変更」なしの家づくり
2拠点生活が、図らずもちょうど良い準備期間になっていたのですね。不思議とつながっていくというか……。そうして始まったセルフビルドの家づくり。設計はどなたが?
Rさん会社を辞めていたので、CADで自分で設計をしました。収入がなくなったので、本当は建築申請の書類作成や手続きも全部自分でやるつもりでいたんです。いろいろ書類も作って、それを風の森さんに見てもらって。ただ役所の手続きが思うように進まず時間がかかってしまって……。このままだと冬のセルフビルド開始に間に合わないから、設計図のできたところから渡して、その後の手続きは風の森さんに引き継いでもらいました。
Aさん 畑をやりたかったから、夏が来る前には家を完成させたいと思っていて。それに賃貸アパートの家賃もかかっていたので、なるべく早く引越したくて。
セルフビルドで建てた家
セルフビルドで建てた家
すごくシンプルなお家ですよね。ほぼワンルームで間仕切りなしです。
Rさんこの家は15坪です。広い家にすると掃除が大変だから、最初から広い家にするという想定がなかったです。15坪+ロフトで、形は長方形ですね。本を読んでいると、「四角くて区切れると使いやすい」とあって、あと材料費も安いし。暮らしやすいです。
風の森設計担当がこの家をすごく気に入っています。「15坪で、寝室も居間もダイニングもキッチンも全部仕切りなしのワンルーム。実際に暮らしてみて、住み心地はどうだろう」と気にしていて。半年住んでみて、いかがですか?
Rさんすごく住みやすいです。最初の設計の時、寝室とダイニングを壁で分ける予定だったのですが、分けなくて良かったです。ワンルームだと暖房の効率もいいし。
Aさん暮らしやすいですよ。私、もし今度また家を建てることがあれば、これより狭い家にします(笑)。これよりもっと狭い家でどうやって暮らせるかを考えたい。
セルフビルドで建てた家
セルフビルドで建てた家
実際に本当に物が少ないですよね。以前のマンションでもこういうすっきりした暮らしをされていたのですか?
Aさんいえいえ。私はもともと管理ができなくて、すごく物が多い人です。もう、全然きれいにならないんですよ、物が多いと。今の家のパントリーの中を見ていただくと、その片鱗が見えるでしょう? それが、本を読んで「ミニマリスト」に感化されて(笑)。本で勉強したら、「物を少なくすると、片付ける物がないから、片付かないわけがない」と。「これだー!」って(笑)。それですぐに片付けを始めて、東京のマンションから茅野市の賃貸アパートに移る時にはほぼ処分してきました。「基本全捨て、2個あるものは1個捨てる」のですが、売れるものは売りました。メルカリとかジモティーで売って、物を減らすんです。この家でも、余った漆喰とか売りましたよ。ジモティーだと取りに来てくれるから助かります(笑)
それでこのすっきり感なんですね。
風の森先ほど「住めればなんでもいい」とおっしゃってましたが、しっかりとした「こだわり」があるからこそ「細かな変更」が無いのかもしれませんね。
・セルフビルドで家を建てる・家のつくりは四角くて区切れると使いやすい・物が少ない暮らし。そういった考えが根底にあったからこそ、設計後の「変更」がなく、その潔さに感動しました。 
Rさん変えたのは、漆喰にするつもりだった壁を、余っていた木で板張りに変えたくらいかな。
風の森そういうのは「変更」とは言えないです。「柔軟な対応」です(笑)
Aさん私、変更したい気持ちもわかります。私も勝手口をやっている時に「もうちょっと下まで光があった方がいいかな」と思って、「変えたい」って喉まで出かかったのですが、作業しているRさんを見ていて、それどころじゃないっていうのもわかっていて……。それでグッと飲み込んだんですけれど。でも完成してみたら、「ああ、やっぱりこれはこれでよかったな」って(笑)。Rさんは、「自分たちで作るから、こだわればこだわるほど、自分たちの首を締める」と言っていました。
風の森事前にそれがわかっていらっしゃるなんて!でも面白いのは、作る時はみなさん細かくこだわって変更をするのですが、住んでしまうとたいして気にならなくなる(笑)
Aさんでもやっている時は、自分たちでやっているだけに変えたくなっちゃうんですよね。
風の森風の森は設計の時、「うちはなんでもいいですよ。お客さまのお好きな材料を買ってきて使ってもいいですし、『こうしなくちゃいけない』っていうことはないから」ってお伝えしています。セルフビルドの金額を抑えるためにも、参考になるような手作り感のあるカフェの写真とかをお見せしたんですね。でもIさんご夫妻はすぐに「いや。風の森さんの仕様で」って言ってくださって……。変更もないし、仕様も任せてくださるし。本当にスムーズにセルフビルド支援ができました。
Rさん設計担当にもそう言われたのですが、だいたいその場で決めちゃうので。
Aさん本当にこだわりがない(笑)。でも、窓枠はお願いしましたよね。東京のマンションが古くて、建て付けが悪くてスッと開かなかったから、窓にはこだわりたくて……。そしたらRさんが、「こだわるところはプロに任せよう」と。
工期半年で体重5キロ減!
そうやって始めたセルフビルド。実際の作業が始まってから家の完成まではどれくらいかかりましたか?
Rさんちょうど冬が建前で、6月に完成したので、半年ですね。ほぼ毎日、年末年始もない感じでやっていました。基礎と建前、屋根工事まで風の森さんにやっていただいて、セルフビルドを始めた時は、基礎と柱と筋交いだけの空間に材木が置いてあって(笑)。ちょうどその頃、風の森さんで小屋づくりのワークショップがあって、参加して道具の使い方とかを教えてもらえたのが良かったです。
風の森ちょうどいい事前の練習になりましたよね。あのワークショップに参加された方って、理解が早いんです。実際に見ているし、やっているから。スタートがとてもスムーズでしたね。
Iさんご夫妻はいつもタイミングが良いです(笑)。しかし、半年で完成とは早いですね! 「日の出とともにおふたりで作業開始」のような感じで進んだのですか?
Rさんいえいえ全然。朝は10時くらいからです。朝、寒いんで(笑)。冬場は10時くらいに賃貸アパートから現場に来て、昼ごはんは食べないでやっていました。あったかい時間帯がもったいないから。それで、3時半くらいには帰る、と。土日はなしでしたね。
Aさんふたりでやらないととても終わらなかったです。私も30ミリの床板を持ち上げたり、透湿防水シートを張ったり、漆喰を塗ったり、コツコツ系を。計算系の作業はRさん。私はたまにパートに行ったりもしていました。
Rさん天井張りの足場を組む時と解体する時には、近くの近くの学生の子をお手伝いに雇いました。「ランチ出すよ」って(笑)
風の森Rさん、痩せましたよねー、あの時。もう、ストップかけたいくらいでした。
Rさんそうですね。セルフビルドしていた半年で5キロくらい痩せました。
「圧」と「愛」のあるレクチャー
Aさんいろいろ教えてくださったのが風の森の大工さん。厳しかったけど、愛がありました(笑)。セルフビルドはつらかったけれど、風の森さんと、大工さんの温かさに支えられました。
風の森担当大工さんにその言葉を伝えたいです(笑)。レクチャーしているのを見ていると、「伝えたい」っていう気持ちが、もうバンバン伝わってきて。Rさんがやっているのを、腕を組んでジーッと見ていましたよね(笑)。もう、圧がすごい!「現場と違いますから!お客さまですから!」って言うと、「いや!これはちゃんと伝えないと、明日から困るのは本人だ!」って。
それにRさんは工程の表を作っていらして「外壁全部の張り終わりが100%だとすると、今日で何%完了!」みたいに表で管理しているんですよ。工程を全把握して作業に落ちがなかったのがすごかったです。普通は、セルフビルドは現場管理が難しいんですけれど。
AさんSEの仕事柄もあるのかと。多分、SEの仕事と建築の世界が似ているんじゃないかなと思います。まず「数字」があって。
Rさんプログラムを作るにも工程があって、その構築の仕方が建築の管理から来ているところがありますね。
動画とか本を見て勉強されていたのですね。自立したセルフビルダーです。
風の森うちのセルフビルド支援はそうなんです。実際、自分で勉強すると力になりますよね。「待ち」の姿勢ではなくてご自身でもしっかり考えていると、たとえば技術的な質問をされて、大工が答えるときにも、答えがすんなり届きます。Rさんはすごく勉強されてたので、理解が早かったです。
夫の「楽しい」に救われた
AさんRさんは、向いているんですよ、セルフビルドに。私は半年間、つらかったのが全部です。始めて4日か5日でいやになって、もうやめたかったです(笑)。「なんでこんなことやるなんて言い出したんだろう?」って。
相当につらかったのですね(笑)。Rさんはいかがでしたか?
Rさん私は楽しかったです。
言い切りましたね。かっこいいです! そう言い切れるくらい楽しかったのですね。 
Rさんはい。楽しかったです。新しいことをやっていたから。作業中の姿勢がつらい、とかはありましたけれど、それでも毎日少しづつ進んでいくから、終わりが見えるというか、メドがついていくので。「今日はここをやる」と自分で計画を立てていますから、それが少しづつ進んでいくのが楽しかったです。
「着実に工程をこなし、作業を進めていくこと自体が楽しい」という。すごいなあ。お話ししていて、Rさんはすごく感情が安定していると感じるのですが……
Aさん感情は動かないですね(笑)。気持ちが安定していて、素晴らしいです。だから私は、それに救われました。私はつらかったけれど、Rさんが「楽しい」って言ってくれて、ありがたかったです。小屋づくりのワークショップに誘ったのも私からで、「どうだったかな?」と思っていたら、「楽しかった」「行って良かった」って言ってくれて。そう言ってもらえたのが、すごくうれしかったです。
風の森セルフビルド発起人のAさんがつらくて、奥様の希望を叶えるためにやっていたRさんが楽しかったという(笑)。作業中の姿勢はつらいけど、めげない、楽しい、って素晴らしいですね。
Aさんでも、だってあれですよ。もし音を上げたら、「じゃあ次の日から就職活動ね」ってことに(笑)。退路は絶ったから、「セルフビルドをやるか、就職活動をするか」その二択しかない。つらかったらセルフビルドを途中で諦めて、後は風の森さんに託して就職活動する? って。私はそれでもいいんじゃないかと思うくらい、本当につらかったですけれど(笑)
セルフビルドで得た力
Iさんご夫妻は、「家が欲しいから」ではなくて、「学び」を目的にセルフビルドをされましたよね。セルフビルドを経験して、どんな学びがありましたか? 
Aさん良かったのは、棚とかスタンドとか、家具を自分で作れるようになったことですね。キッチンも、テーブルも、みんな作りました。テーブル、ちょっと内股なんですけど(笑)。端っこに体重がかけられないの。
Rさん私は、安心感というか。自分で全部作ったから、どういう風にできているかがわかったことが良かったですね。人に任せてしまうと、壁の裏側とかがどうなっているのかわからない。自分でやっているから、「何かあれば自分の責任だな」と思えるし
風の森セルフビルドを経験して家を一軒建ててしまうと、もう何でもできるようになりますよね。業者さんに頼まなくてすむので、後から造り付けの家具を付けたいとか、直したいとか、そういうことがすごく安上がりです。材料もセルフビルドの端材が使えますし、自分たちの暮らしに必要なサイズで作れるし。
家具まで手作りだから、室内の色やテイストが揃っていて、落ち着く空間になっていますね。デッキもいいですよね。干し野菜があって、太陽熱でお湯まで沸いていて、何があっても大丈夫な自前のライフラインが構築できています。
Aさんそうですね(笑)。タンクに200リットルの水を入れて、太陽光でお湯を沸かしています。あとは太陽光調理器の「エコ作」。これ、すごくいいんですよ。YouTubeで男の子たちが絶賛していて、「やりたいなあ」って思っていて(笑)。今もちょうどクッキーを焼いています。いろいろ勉強したことが大きいですよね。最初はネットとか本とか、YouTubeも。今、だんだんと稼ぐのが大変な時代になってきていますよね。バブルの時のようにお給料が上がるわけではないし、生活費も上がるし。私は、稼ぐよりは削減する方が楽しいというか(笑)。こういう暮らしが好きだからというよりも、「減らすこと」をやってみたいんですよね。
風の森出費を抑えることで自由になっていますよね。縛られないというか。日々必要なお金を得るために自分の時間を使っているわけですから。
Rさん この家ができて、光熱費が下がりました。あと、畑が趣味だから一石二鳥ですよね。
移住は「一気に変える」より「少しづつ変化していく」
1年前までの都会のマンション生活と、自分の建てた家で畑仕事をしながら暮らす今の生活はまったく違いますよね。Iさんご夫妻からは、変化する時の「軽やかさ」みたいなものを感じます。「2拠点生活がしたい」とか「セルフビルドがしたい」と思っている方は増えていますが、実際には「不安だから仕事は辞められない」とか「次が決まらないと動けない」という方たちが多いと思います。Iさんご夫妻の「やってみよう」「何とかなる」という軽さはどこからきていて、そしてどうしたらそうなれるのでしょう。
Aさん物を少なくすれば、そうなります。人に言ってもなかなか信じてもらえないのですが、本当にそうなんです。私は、片付けから始まりました。もともと、そこそこ物がありましたから(笑)。片付けをして、物を減らしたら身軽になりました。そうしたら何事にもハードルが低くなるというか。おすすめです。みんな信じてくれないけれど、私はそこから変わりました。
Rさん「一気に変える」というよりは「少しづつ変化していく」のがいいのかなと思います。私たちも最初は賃貸でしたし、畑も市民農園を借りてやっていましたから、「何かあればやめればいいや」と思って、それぐらいの気持ちでやっていました。
最後の質問です。正直、セルフビルドはやった方がいいと思われますか?
Rさん覚悟があるなら、というか、中途半端だったらやらない方がいいかな、という気がしますね。
Aさんいやー。相当な覚悟がいると思います(笑)
Rさん土日だけでセルフビルドをしている方は、すごいと思います。うちは専念できたから……。専念して、ふたりで毎日やって、それでも半年かかりました。勤めながら土日だけでやるとなると、正直、自分たちにはできなかったです。
じゃあ家づくりは「覚悟」と「時間」ですか。
Aさんあとは「こだわらない」こと。本当にそう思います。だって素人がやるんだから。プロ歴何十年の人の仕事を、経験のない人がやるんだから、それはできないですよ。
「覚悟」と「時間」と「こだわらない」ことですね。本日はお話を聞かせてくださってありがとうございました。お土産にお野菜までいただいて。美味しくいただきます!
コラム「太陽光クッキング」
デッキでは干し柿や干し野菜をつくるだけではなく、太陽を活用して調理ができるソーラークッカーをお持ちのIさん。 厚焼きクッキーのほかにも骨まで食べられる焼き秋刀魚や、スパイスたっぷりのタンドリーチキンも焼けちゃいます。外気温の低い12月でも仕上がり熱々。しっかりと焼き上がる不思議な仕組み。しかも光熱費はかかりません。セルフビルド中は、Rさんがクッキーの仕込み係だったそうですよ。
セルフビルド中も大活躍。お湯を沸かしたり、休憩用のクッキーを仕込んだり。取材の日もお茶もクッキーもソーラークッカーで用意してくださり、これがまた美味。
コラム「Iさんご夫妻の野菜づくり」
自宅の敷地内のあちこちに、そして自宅からちょっと歩いたところにも畑があります。
冬なので、今年の収穫はもう終盤。今育てているのは固定種の春菊やニンニクや玉ねぎです。今年は大豆を作って手前味噌も仕込みました。
ご近所さんからは沢庵の漬け方も教えてもらって挑戦されているそうです。来年は市民農園をもう一区画借りて、なんとスイカづくりをするそうです。豊かな暮らしが素敵です。
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